レスリングって頻繁にルールが変更されるので、選手やレフリーは大変だなあといつも思ってます。
そしてルールの一つである、レスリングの階級、つまり体重区分も規定が良く変わります。
現在(2021年)の階級
現在(2021年)は以下のように10階級に分かれています。
太字はオリンピックで試合が行われる階級(kg)です。他との競技との兼ね合いなどで開催される試合数に制限があり、オリンピックは全ての階級をフォローしているわけではないのです。
だから男子グレコの63㎏級の選手が、オリンピック代表に選ばれようと思ったら、60㎏級に絞るか、67㎏級に増量するしかないのです。
さらにその階級(体重)区分も、オリンピックの度に変わる可能性があります。
フライ | バンタム | フェザー | ライト | ライトウェルター | ウェルター | ライトミドル | ミドル | ライトヘビー | ヘビー | スーパーヘビー | |
男子グレコ | 55 | 60 | 63 | 67 | 72 | 77 | 82 | 87 | 97 | 130 | |
男子フリー | – | 57 | 61 | 65 | 70 | 74 | 79 | 86 | 92 | 97 | 125 |
女子 | 50 | 53 | 55 | 57 | 59 | 62 | 65 | 68 | 72 | 76 | – |
これまでの階級の区分の変遷についてはウィキペディアのページをご覧ください。
グレコとフリーの違いは、こちらの記事(フリースタイルとグレコローマンスタイルの違いと魅力)をどうぞ。
ルールの変更も選手にとっては死活問題ですが、階級の区分がコロコロ変わるのも大変です。
ボクシングの場合1.36㎏ごとに階級が変わります。たったそれだけ体重が違うだけで勝負にならないということですよね。
素人考えですが、レスリングの方が全身でぶつかったり上にのしかかったりしますから、体重差の影響がボクシングよりさらに大きい気がします。
体重区分のルールが変わって、もっと減らさなきゃなんて状況になったら・・・
私なんて1kg体重落とすのに結構大変な思いをしてるのに。
ただやせるためなら多少の食事制限でなんとかなりますが、ずっと練習で動き回って、パフォーマンスを落とさないようにしなきゃいけないわけですからね。
どの階級を選ぶかという戦略が重要
階級のルールが変わると、他の階級にいた強い選手が自分の階級に移ってくるってことも当然あり得るわけです。
自分がどの階級を選ぶのかという戦略も、スキルアップ以上に大切なのではないでしょうか。
大学レスリングの場合、ミドルクラス超えるとたまに
「あの・・・あなたその体、もう一つ下の階級でエントリーすべきでは・・・」
という選手をみかけます。おそらく自分のベストの階級は他の強い選手に取られてしまって、泣く泣く枠が空いていた上の階級に出ているのではないでしょうか。
そして開始直後に、豪快な投げ技で瞬殺されてしまうという・・・
あと重量級の区分けって結構、雑ですよね。
グレコローマンの場合、97㎏の次はいきなり130㎏!ですからね。
110㎏がベスト体重の人なんて階級ギリギリまで体重15㎏増やすか、あと15kg絞るかの判断をせまられるわけで、大変そう・・・
頻繁に階級区分が変わる理由
「なんでそんなに頻繁に変わるんですか?」
とあるレスリングの選手に聞いたことがあるのですが
「想像だけど、多分世界のレスリング協会のエライさんの贔屓(ひいき)の選手に有利になるようにしてるんじゃないかな」
という意見でした。
いくらなんでもそんなことまではしないだろう、と思ってしまうのは私が日本人だからでしょうか。
確かに他のスポーツを見ても、自分が有利になるようルールを変える政治力も、実力のうちって欧米人は考えているところがありますよね。
計量の方法
減量で有名な競技と言えばボクシングですが、ボクシングでは前日の計量にパスすればそれでOKです。計量が終わったら、ガンガン食べて、いくら体重が増えてもいい。
レスリングでもかつてはずっとそうだったのですが、2017年にルールが改正されて(出た、レスリング名物のルール改正)、2日間の試合の両日の朝それぞれ計量があるのです。
多くの全日本コーチが未経験のルール…32年ぶりに復活する早朝計量 Japan Wrestling Federation – 日本レスリング協会公式サイト – JWF
2日目は2㎏オーバーまで認められるらしいのですが、これでは試合が終わるまで好きなものを食べられそうにないですね。
「フォックスキャッチャー」というレスリングを扱った映画の中では、なんとか体重測定を切り抜けるために、登場人物が体重計の上で全裸になるシーンがありました。
えっ、計量の時にそんなセクシーなことやってるのとちょっとドキドキしましたが、「少なくとも日本ではそんな人見たことがない」と言われてしまいました。
まああの映画も実際にあった話を映画化したとはいえ、20年以上の前の時代設定でしたからね。
ちょっと残念(笑)
(ちなみにこの映画、最初の試合に負けた選手が自暴自棄になってルームサービスでケーキをムチャ食いするというシーンがあって痛々しいです)
たった50グラムで東京オリンピック代表を逃した男
リオデジャネイロオリンピックの銀メダリスト、樋口黎(ひぐち れい)選手は、わずか50グラムの体重を絞りきることができず、2021年の東京オリンピックの代表選手の座を失ってしまいました。
樋口選手が2016年のリオデジャネイロオリンピックで銀メダルを取ったのは、男子フリーの57㎏級でした。しかし57㎏級で絞り続けるのは本人とって相当きつかったらしく、東京オリンピックは一つ階級を上げて65㎏級を目指すことに。
2019年6月の全日本選手権では、前年の2018年に65㎏級で日本人最年少世界チャンピオンになっていた乙黒拓斗(おとぐろ たくと)選手を倒します。しかし翌月の世界選手権代表争いでは、その乙黒君に負けてしまうのです。
伸び盛りの乙黒選手に、今後勝つのは難しいと考えたのか、再度体重を落として57㎏の階級でオリンピックの代表枠を目指すことに。
それにしても65㎏から57㎏への減量って、体重の12%を減らすわけですよ。それもおそらく体脂肪率1桁の人がさらに減らすんですよ。私がダイエットするのとわけが違う。
階級が細かく別れている世界選手権なら、階級の変更はなんとかなるかもしれません。でもオリンピックは階級が限られていて、次の階級への体重差が大きいから、こういう無茶をしなければならないんですね。
2019年の天皇杯決勝で元世界選手権王者の高橋侑希(たかはし ゆうき)選手を倒し、このままいけば、オリンピック代表は確実でした。しかしここでコロナ禍のため、オリンピックが延期され、代表決定は持ち越しに。
それでも2021年4月のアジア選手権で、2位以内に入れば代表決定でした。
なのに、なのに・・・
ここでなんと試合当日朝の計量で、規定体重50グラムオーバー。
アジア選手権失格となってしまうのです。
いや50グラムっていったら、ヤクルト1本(65グラム)より少ないんですよ。
もーちょっとなんとかならなかったのかな~と思ってしまうんですが、
どうも初回の計量で250グラムオーバーだったらしく、30分後の再チャレンジまでいろいろやってけど、力及ばず50グラムオーバーだったと。
30分で200グラム落とすっていうのも結構大変なはずで、
「一切の妥協なくやってきた。極限の状態で、落ち切らなかった」
ってインタビューで答えているのを聞くと、もう本当に、なんともならなかったんだろうな。
どうやら2015年の全日本選抜(明治杯)でも一度失格になった経験があるらしく、無理を承知で今までやってきたのかと思うと、切なくなります。
その結果、ライバル高橋侑希選手に再びチャンスを与えることになり、結局オリンピック代表の座を2021年6月12日直接対決で争うことに。
試合中も苦しそう・・・
途中2-2まで追いついたものの、結局4-2で高橋選手に敗れてしまいました。
勝負に「たられば」は禁止といいますが、それにしても残酷な結末でした。
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